スキルス胃がんだったとは!

夫がスキルス胃がんステージ4の告知を受けてからのこと

水を吐いて病院へ

三が日が終わり、仕事はじめがやってきた。

その日もちおは帰りが早く、わたしたちはローカルラジオの番組で紹介されたレストランへいった。ご飯とスープ類にメインのおかずを選び、サラダが取り放題というお店。もちおは相変わらず食が細くて、わたしたちは食欲がわくものを探して食べようと考えていた。

 

もちおは外食では「その方が得だから」と大盛にできるものは大盛にしてもらう。首都圏にラーメン二郎という店がある。量が多く脂がギトギトで有名な店。東京にいたころもちおは二郎で大盛ましまし(野菜増し、麺まし)を食べる男だった。

 

二郎圏外の福岡に越してからは身体を張ってラーメンに立ち向かうようなことはなくなったが、どうしたわけか仕事の合間にアイスクリームを食べるようになった。電車通勤からのロードバイク通勤をしていた日々は遠くなり、車生活で運動量は減り、当時のもちおは人生で最高に太ってBMI26~27くらいになっていた。ボクサーをしながら肉体労働に精を出していたころから見てきたが、見たこともないような腹だった。

 

ラジオで紹介されていた店のおすすめポイントは男性客大喜びのボリュームだった。もちおはいつもよりずっと控えめに皿におかずを盛り、席に着いた。しかしとった料理をほとんど口に運ぶことができなかった。

「サラダは?野菜だけでも食べられたらいいよ」

「うん…なんか詰まった感じがして苦しい」

「お水もってこようか?」

もちおは飲み込んだ料理を苦しがり、水を飲んだ。それでも詰まった感じは消えなかった。

 

ほとんど食べきれないまま店を出て駐車場へ向かう途中、もちおはどんどん具合が悪くなり、ついに路肩の排水溝で吐いた。胃痙攣を起こしているのだとわたしは思った。ところが出てきたのは水ばかりだった。

 

「水飲んで吐くっておかしいよね」ともちおはいった。もちおはこのときはじめて自分の身に、何か経験したことのない異常が起きていると自覚したようだった。「明日、Aさんの病院いってくるわ」

 

もちおの胃はこのとき中心部をガンで侵され、上下を残して齧られた林檎のような形になっていたことが後のバリウム検査でわかった。スキルス胃がんのスキルスとは皮のことで、ガンに侵された胃の粘膜は食物が入っても膨らむことができない。もちおがいっていた「詰まった感じ」とは、林檎の芯のように細くなった胃の中心部を咀嚼した食べ物が通過するときの圧迫感のことだった。一気に入ってくると通過の苦しさは液体でも変わらない。

 

会社の保険で毎年人間ドックを受けていたときにはバリウム検査も毎年受けていた。転職してからは毎年健康診断を受けていたけれど、バリウム検査は受けていない。不愉快な検査の代表選手として名高いバリウム検査だけれど、あのまま人間ドックを毎年受けていたらここまで進行することはなかった。

 

もちおが4年ぶりにバリウム検査を受けたのは細胞診検査の結果からガンがわかったあとだった。当時のもちおの胃壁は鍾乳洞のようにボコボコで惨憺たるものだったけれど、A医師は胃カメラでこの惨状を見てもまだガンだとは気づかず、「胃潰瘍やね~。薬出しとくけん。念のためちょっととっておこうか」と細胞診検査をして胃薬を出していた。翌週の検査結果を見ていちばん驚いていたのはA医師だった。

 


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