二度目の内視鏡手術
「CTで確認できなかったがんが胃カメラで見つかった」と告知された4月の終わりからのことを簡単に書いておく。
5月に入院して内視鏡で検査手術をした。「去年2月に見られたリンパ節への転移が消えていたら、そのまま胃の全切除を受けてはどうか」と内科、外科双方から勧められた。現代医学の見解では胃の全切除以外にスキルス胃がんの根治はない。唯一の望みだった手術ができないと言われたあの日から一年、果たしてあの無数のリンパ節転移は消えていた。
夫もちおはさして迷うこともなく胃切除を断った。
「胃があるから食べられている。これで食べられなくなったら体力が持たない」
手術前に一年ぶりに撮った胃のレントゲン写真を見た。胃粘膜を苔のように覆うがんに侵され、絞った雑巾のように細くなっていた胃は、不格好ながらも胃らしい膨らみを取り戻していた。クリスマスのプレゼントを詰めるブーツのような形をしている。
「スキルス胃がんで胃が回復する割合はどのくらいなのでしょう」
わたしの質問に医師は首をかしげて唸った。
「年々お薬がよくなっていますから、これだけきれいになることがあるんだと、僕たちも最近ようやく知ることができるようになったというのが正直なところです」
要はまさかここまで回復するとは予想もしていなかったということだ。事実、再発宣言を受け、検査手術を終え、TS-1の服薬がはじまってももちおの食欲は衰えなかった。満腹になるまで腹いっぱい食べられた。だからこそ胃を切除することは惜しかった。
この選択が延命という点で正しかったのかどうか、わたしは今もよく考える。もちおはそれでよかったのだという。けれど病状が悪化し、徐々に食が細くなってから「あのとき切っておいた方がよかったかな」と苦し気に腹をさすりながらぽつりとこぼした日のことをわたしは忘れられない。
外科は最大限夫の意思を尊重してくれた。一刻を争って全切除をとすすめていた内科医も検査手術のあとは夫の決断を支持し、化学療法に気持ちを切り替えてくれた。
かくして再びTS-1の服薬がはじまった。残念ながらこれはまったく効果を発揮しなかった。