スキルス胃がんだったとは!

夫がスキルス胃がんステージ4の告知を受けてからのこと

TS-1 再び

10ヵ月の休薬を経て再びTS-1の世話になることになった。

 

結果的にこれは何の効果も発揮しなかった。夫は高価な薬代と副作用だけをくらった。保険適応で5~6万円の薬を三週間ごとに買うのだ。がん関連で金銭感覚がおかしくなると、高価な健康食品を見ても安いものだと思えてくる。わたしは薬の有効期限を尋ね、去年飲み残した薬を数えてその分今回買う薬を減らしてもらった。

 

抗がん剤はどれも基本的にがんだけを狙い撃ちすることはできない。全身の細胞分裂を抑えるので、新陳代謝が阻害される。結果的にがんが増殖する速度が落ちる。その隙に免疫細胞ががんを片づける。抗がん剤が効くとは、免疫細胞ががんを片づける速度が、がんが増殖する速度を上回るということで、抗がん剤はがんを直接叩いているわけではない。一にも二にも免疫頼みである。しかし抗がん剤は免疫も衰えさせる。抗がん剤の無差別攻撃は敵の威力を衰えさせるかわりに味方の力もそぐのだ。

 

抗がん剤が効果を発揮するかどうかは試してみるまでわからない。治験である程度の結果が得られているとはいえ、個々の身体の反応はPCパーツの組み合わせ以上に複雑だ。

 

ムカつきと倦怠感、船酔いと二日酔いのような気分の悪さ。やっと少し気分がよくなると次の薬の時間だ。今回はエルプラットの投薬がない、TS-1の副作用だけなら軽いもので済むと予想していたもちおはすっかり参ってしまった。

 

「自分で自分を刃物で切り付けているみたいなんだ」

もちおは苦々しい顔で高価な薬を眺めていった。飲むと楽になる薬ならすすんで飲む気にもなるが、身体が嫌がっているのだか無理もない。箇条書きにされた副作用一覧の中にはがん以外の致死的な病への罹患もあった。一か八かで毒を飲んでいるのだ。

 

今日は風邪気味だから、今日はもう時間が遅いから。なんだかんだと理由をつけてもちおは服薬を欠かした。見ている側にすれば散発的に感覚が開くことでがんがかえって耐性をつけるのではとハラハラする。しかし飲めば飲むほどよくなるというものでもないのはわかっている。苦しい副作用に耐えるのも、命を秤にかけるのももちおだ。

 

わたしは複雑な気持ちでせいぜい気分がよくなりそうな話題をふってみたり、寝床を整えたりすることしかできなかった。わたしも気が滅入る。怖い。家事に手がつかない。仕事でミスをして怒られる。こんなとき漫画にずいぶん助けられた。「これからの暮らしをどうしましょう」という話題が暗いときに、「この先の展開はどうなると思う?」と楽しく語り合える話があってよかった。

 

こうして埒が明かない4クールのあと、遂にオキサリプラチン、つまりエルプラットの点滴も再開することになった。身体にプラチナを入れるのだ。

 


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