スキルス胃がんだったとは!

夫がスキルス胃がんステージ4の告知を受けてからのこと

マスオさんストレスと食欲不振

A医師らと別れたあと帰宅してひと眠りした大晦日の夜、一人暮らしをしている母から手料理を用意しているというLINEが入った。母は料理上手なのでいつもなら喜んでいくところだけれど、このときはもちおが二人で過ごしたいというので、断ってファミレスでパフェを食べた。正確にはわたしがパフェを食べて、もちおはいくらか味見をした。

 

はじめはフレッシュネスバーガーへいきたいといっていたのだけれど、店はすでに閉まっていた。もちおは「ざーんねん!」と言いながらも落胆する様子はなく、妻の手をつないで歩くことを楽しんでいた。

「あー、二人は楽だ。ストレスだと思うんだよね」

二人きりで夜の街を歩くもちおは上機嫌だった。わたしは「これでうやむやにはしまいぞ」と思う気持ちと、「本当に何でもないのならいいな」という淡い期待とで揺れていた。はたして元旦、もちおははてこ母が作る絶品お節と雑煮を二口食べただけで耐えられず横になった。

 

「我神散がいいわよ」と母はいった。

母は祖父母の代からの我神散愛好家で、胃腸の悩みにあの苦い粉末以上のものはないと思っていた。もちおは母の勧めで我神散を買ってはいたけれど、効果が感じらないようで、1、2包飲んでそれきりになっていた。

 

「だめよ、ちゃんと飲まなきゃ。病院はいったの?はてこはなんでいわないの」

「いってるよ。でももちおの身体のことはもちおが決めるでしょ」

もちおは弱弱しい苦笑いで座布団に頭を乗せて黙っている。

もちおは人をはっきり拒絶しない。ぎゃーぎゃー文句をいう相手は妻だけだ。舅姑のすすめはなんでも受け入れるそぶりを見せるけれど、まず自分の望まないことはやらない。押しの強い母はなんとしても確約を取り付けようとするけれど、本人が望まないことをいっても無駄なのだ。

 

それにしてもこの小食ぶりはどうしたことか。普段姑への不満の最後を「でもお義母さんの料理は本当に美味いからな」でしめるもちおは、土産に持たされたお節にもほとんど口をつけなかった。かわりにスナック菓子やアイスクリームなどジャンクフードを食べ、不調を理由に家にこもって漫画を読み、ベッドでだらだらして正月をすごした。寝正月をエンジョイするもちおはそれなりにしあわせそうだった。確かにストレスで他人が作った料理を受け付けなくなるということはある。このころはまだ妻が作ったクリームシチューなどはもりもり食べていた。

 

じゃあ大晦日の蕎麦屋は?

あれは舅一家とその客に囲まれていたのがストレスだったのかもしれない。

年末にお弁当が入らなかったのは?

それは連日の忘年会で胃が荒れていたのかも。

 

そうだろうか。暴飲暴食で一時的に胃が荒れて、そこに精神的なストレスもあって食事を受け付けなかったのだろうか。

 

もちお自身は間違いなくそう思っていたし、わたしもそう信じたい気持ちはあった。それが覆ったのはもちおが飲んだ水を吐き出した日、告知を受ける一週間前の夜のことだった。


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