スキルス胃がんだったとは!

夫がスキルス胃がんステージ4の告知を受けてからのこと

セブンイレブンの天津甘栗と伊都物語の飲むヨーグルトで生き延びる

食の細さが極まっておちおち水も飲めないほど胃が細くなり、4月を生き延びられるだろうかと震えていたが無事5月を迎え、落ち続けた体重もいくらか戻ってきた。食べられるものが見つかった。伊都物語飲むヨーグルトセブンイレブンの天津甘栗だ。

 

食道がんは喉を食事が通らなくなるが、スキルス胃がんは口にしたときは普通、喉も難なく通過して、胃に入ってから腸に通過するまでに難関が待ち受けている。胃壁が厚くなり、胃の内部が細くなっているので、鼻から経管栄養を摂取するのも胃ろうをするのも難しいのではないかと思う。可能性があるとすれば腸ろうだけれど、腸ろうはほぼ一日中栄養バッグを下げ続ける大仕事だと聞く。

 

スープを裏ごしして出していたが、繊維が少しでもあると下水管にゴミが詰まるように胃に詰まるらしく、見る方も辛くなるほど何時間も苦しむ。食べると苦しいと思うから食べることが怖くなる。外から栄養が入って来なくなるとがんはタンパク質を分解して使おうとするので体重は容赦なく落ちる。168cmで70kg超えだった身体は46kgを切るまでになり、背骨が浮いた後ろ姿が痛々しい。*1Twitterで流れてきた栄養失調の日本兵の写真を見てもちおのようだと思った。

 

告知された年、つまり2016年はお百度を踏むように温泉に通ったが、体調がよくなるにつれて高まった仮想通貨熱と反比例してもちおは温泉から遠ざかっていた。しかし薬も効かない、サプリ類も飲めない、食事もできないとなってもちおは再び温泉通いを再開した。

 

がんにはラドン温泉がいいといわれているが、もちおが好きなのは我が家から少し離れたところにあるラドン温泉ではなく、さらに遠いところにあるアルカリ泉。抗がん作用はどうかわからないが、泉質はとてもよく、何より施設の雰囲気がいい。

 

弘法大師ゆかりの薬湯という霊験あらたかなうたい文句にすがり、祈るような気持ちで毎日車でバイパスを飛ばす。一ヵ月の入湯代金は交通費を合わせて二人で約二万円で、財源は「三朝温泉へいって湯治に使ってほしい」と妹が送ってくれた見舞金だ。温泉地へ泊まり込むことを考えれば通いの湯治は費用対効果が高い。3月の時点ではもう一度福岡~鳥取という長距離ドライブをもちおが耐えられるかどうかもわからなかった。

 

この弘法大師ゆかりの温泉で「伊都物語」という地元ブランドの無糖の飲むヨーグルトを買った。

 

今年に入ってもちおは食事の通りが悪いときによく市販のヨーグルトに義妹夫婦が送ってくれたマヌカハニーを入れて食べていた。加糖の飲むヨーグルトは手軽だが、糖質コントロールが難しい。背に腹は代えられないと飲んでいたけれど、美味しくもないようでなかなか減らない。そうこうするうちにヨーグルトに飽きが来たのか、ここしばらくはどちらもすすまなくなっていた。もちおは一度飽きるとどんなに飢えていても食べられない。ラコールなどハイカロリーの栄養ドリンクも一度不味いと思うと口をつけない。「贅沢いってる場合か」と言いたくなるが、飢えて一番困っているのは本人だ。甘ったるくドロリとした栄養ドリンクは胃にこたえるといって途中で飲むのを止めてしまうので入院中に出されたパック飲料はほとんど持ち帰ることになった。

 

「ねえ、これは無糖だし、牛の飼い方からこだわっているし、飲めるんじゃないの」「美味しそうだね。でも高いよ」「風呂上りにビールを飲むと思えば大したことない」いま思えばビールの方が安かった。しかし口に入れて飲み込めるもの、腹に納まるものは栄養価もさることながら「このまま飢えて栄養失調で死ぬんじゃないか」という精神的な危機をなだめる効果も期待できた。そしてそれこそまさにわたしたちが必要とするものだった。弘法大師ゆかりの薬湯で売っている飲むヨーグルト、これも何かのご縁と500mlを1本買った。確か、1本400円だったと思う。

 

※いまみたらAmazonでも売っていた。

 

とても濃厚な、飲めるプレーンヨーグルトくらいの濃度のヨーグルトだった。カロリーはたいしたものではないけれど「飲み込めた、苦しくならなかった、吐かなかった」ということがどれほど希望になっただろう。思いがけず、これが転機になった。

 

この日もちおはふと思いついて帰り道セブンイレブンへ寄って天津甘栗を買った。天津甘栗は口の中でサラサラのでんぷん質になるので、胃に詰まらないのではないかと思ったのだった。果たして栗はもちおを苦しめることなくカロリーを補給してくれた。あっという間に小袋を一袋食べてしまったので心配したが、胃はこれを難なく受け入れたようで、もちおは嬉しさとひもじさに煽られ、続けざまに二、三袋食べた。これはやり過ぎだったようで、いくらか苦しんでいたが吐かなかった。

 

甘栗一袋は裏ごししたポタージュスープ一杯と同じほどのカロリーだ。スープを温め、裏ごしするには手間暇がかかるが、甘栗はどこのセブンイレブンでも手頃な値段で売っており、常温で保存でき、一口単位で手軽にパクパク食べられる。ポタージュスープを一杯飲むのは支度も消化も一苦労だが、甘栗はこれぞファストフードという手軽さで支度も消化も容易だった。

 

この日からもちおは毎日セブンイレブンの天津甘栗を食べ、伊都物語の飲むヨーグルトを飲むようになった。900ml入りをだいたい一日で飲む。無糖は100mlで83kcal、加糖は90kcalなので、900mlでは744kcal、加糖は810kcal.甘栗は一袋80gで143kcalとあるので一日1000kcalほど摂取できるようになった。これまでの3倍から4倍のカロリーである。

 

再びサプリやリポゾームビタミンC、ミドリムシやフコイダンカプセルが飲めるようになり、気分も明るくなり、燃やすものがなく冷え切っていた身体も温まったせいか、最近はゆっくり少しずつなら固形物が飲み込めるようになってきた。命綱だったスープは身体を温める食卓の彩に戻り、味わいながら余裕をもって飲めるようになってきた。

 

伊都物語のヨーグルトの予想外の効能はもう一つある。腸内環境が整ったのか、これまでコーヒーエネマ頼みだった排便が自然に通じるようになり、立派な雲子を拝めるようになったのだ。もちおは長らく市販のヨーグルトを食べたり飲んだりしていたが、こんなことは初めてだ。伊都物語のこだわりが腸内細菌を唸らせている。

 

基礎代謝に基づくカロリー計算からすると信じがたいのだけれど、伊都物語の飲むヨーグルトとセブンイレブンの天津甘栗でもちおの体重はみるみる増え、二週間ほどで49kgまで戻った。

 

あれがいい、これがいいと聞くたびに何とか食べてほしいと思うけれど、支度が大変なもの、高価なもの、何よりもちおの口に合わないものは続かない。方々を尋ね歩き、さんざん探し回って来たけれど、こんなに近くに手軽に口にでき、容易に胃を通過し、手が届く値段のものが見つかった。お蔭様、弘法大師様様である。

 

*1:ここ20年ほど174cm/45kgの自分がどれほど痩せているのかを客観的に見て逆に少し怖くもなった。